愛を餌に罪は育つ
梓がカフェに着いた時に居た周りの客は、みんな違う顔に変わっていた。


それもその筈だ。


今や時計の針は三時半を回ろうとしていた。



「彼の本命の女性の名前は美咲。今年の一月に入社してきた女性と仲良くなったんだけど、その子も美咲っていう名前だった」

「――――」

「そして知ったの――彼女の彼の名前が朝陽だって――。やっと見付けたと思った」



紅は眉間にシワを寄せ、不機嫌そうにも見える顔でコーヒーをそっと口に運んだ。


梓は気にしていないのか、はたまたその様子に気付いていないのか、更に話を続けた。



「どうやって彼に接触しようか悩んでる時、偶然彼に会うことができたの。その時に彼の肩に付いたゴミを取るふりをして抜け落ちてた髪の毛を取ったの」

「でも、DNAが一致しなかったって事は人違いって事よね?」

「そうだね――だけど、書面には一致しないって記されてても納得できない自分がいる。涼子の部屋にあった髪の毛と歯ブラシは同一人物の男性の物って事は、間違いなく部屋に出入りしてた男性がいる」



梓は空になったコーヒーカップの中を覗きながら静かにそう言った。


そして近くにいた店員を呼び止めると、二杯目のコーヒーを注文した。






< 131 / 390 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop