愛を餌に罪は育つ
私は顔を上げ副社長に尋ねた。



「どこかにお出かけですか?」

『あぁ、私用で出掛けるところだ。君も外出するのか?』

「はい。明日南雲会長が出張から戻られると伺ったので、南雲会長がご贔屓にされている和菓子店へお菓子を買いに行って参ります」

『そうか、すまないな』



副社長のお父様の南雲会長は、出張だったり旅行だったりに行かれた後は、会社に出社された際には必ず副社長室までいらっしゃる。


副社長室で副社長とお茶を飲みながらお話をして、いつも笑顔で部屋を出ていかれる。


お二人を見ていると本当に仲の良い親子だなと微笑ましく思う。



『和菓子店まで車で送っていこう』

「いえ、お気持ちだけで――」

『遠慮はしなくていいといつも言っているはずだが?』



副社長に言葉を遮られ、その上そんな事を言われてしまっては断るわけにはいかず、私は「宜しくお願いします」と言うしかなかった。


副社長とのこのやり取りはお決まりになってきているような気がする。


毎回本当に申し訳なく思うけど、毎回副社長の背中を見ながら緩みそうになる顔と戦っている私はこのやり取りが好きなんだと思う。


そして、前を向いたままでも私の事を気遣いながらゆっくり歩いてくれる副社長の少し斜め後ろを歩いてる時間が好き。


いつか、貴方の隣を歩けたら――なんて思ってしまう私は秘書失格ですか?





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