愛を餌に罪は育つ
「す、すみませんッッ」



慌てて体をどけ、距離を取って座りなおした。


もう――恥ずかしくて顔が上げられない。



『秋さんが面接したんですか?』

『いや、面接には俺は参加してない』



“俺”――。


副社長はいつも自分の事を“私”と言っているからなんだか新鮮だった。


“俺”と言っている時の副社長はプライベートの時の顔なんだろうな。



『知ってる子が秘書でつくなんて、世間って狭いですね』

『そうだな』



――――ん?


知ってる子って――どういうこと?



「入社当日にご挨拶させて頂いた時が初対面――ですよね?」

『いや、その前に一度だけ会っている』

「――――」



その言葉を聞いて段々と血の気が引いていくようだった。


私は記憶喪失で勿論副社長の事も覚えていなくて、だけど副社長は私の事を覚えていてくれたわけで――事情を知らない副社長にしてみたら私って最悪な奴じゃん――――。





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