愛を餌に罪は育つ
無精髭に少しメタボリック気味で話し方が特徴的な貫禄のある山田さん。


健康的な肌色にスラッとしていて長い黒髪を一つに束ねている、まだ少しだけ初々しさが残っている笠原さん。


考えるまでもなく山田さんの方が上司だろう。



「どうぞお掛け下さい」

『それでは失礼します』



二人が椅子に腰を下ろし、私はベッドに腰掛けたまま二人の方へと体を向けた。


メモ帳とペンを取りだし、メモを取る準備が出来ると山田さんは話を始めた。



『主治医の先生から記憶喪失だと伺ったんですが、本当になんも覚えとらんですか?』

「自分が誰かも、周りの人のことも分からないんです。いくら考えても今まで蓄えてきた知識しか浮かばないんです」



私の言葉を信じてくれているのかは分からないが、2人ともスラスラと何やらメモをとり始めた。



『では、何故ここに運ばれてきたかも覚えとらんですか?』

「先生からは外で気を失っているところを発見されて運び込まれたと聞いてます。違うんですか?」

『そん通りです。自宅の外で倒れているところを消防士に発見されたんです』

「消防士――?」



消防士がたまたま家の前を通ったんだろうか――。





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