愛を餌に罪は育つ
ご飯を作る前に一度朝陽の隣に行こうと私もソファーへと足を進めた。


ご飯を作ってる最中にまた抱きつかれたら困るしね。



「今日は仕事じゃなかったの?」

『今日は休みだよ。久しぶりに家でのんびりした』



そう言うと朝陽は私の腰をだき、自分の方へと引き寄せた。


そして触れるだけのキスをする。


最初に決めたルールはどこにいったの?と言いたくなるほどキスをする事は普通になっていた。


だけどそれ以上の事はしないし、朝陽もしてこようとはしない。



「今日仕事の移動中に翔太君に会ったよ」

『――翔太に?』

「うん、ペットの散歩してたんだ。翔太君って変わってるよね。名前もポチだって聞いて驚いちゃった」

『そうだね、ポチなんてありきたりな名前だと犬もちょっと可哀想だよね。でも今の時代だからそういう名前の方が個性的なのかな?』



可笑しそうに笑う朝陽に対して何も言えなかった。


確かにポチなんて名前はありきたりだと思う。


だけど――翔太君の持っていたリードに繋がれていたのは犬じゃなくて猫――だから私は変わってるって思った。


「犬じゃなくて猫だよ!!」って普通なら笑いながら言える場面なはずなのに、何故かその一言が私には言えなかった。


何かが崩れ始めるような音が――本当に僅かに、小さくしたような気がした。






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