愛を餌に罪は育つ
「妹なの」

「えっ?」

「一緒に写真に写ってるのは私の妹」



笑っている口元は似ているけど、他はあまり似ていない。


梓は可愛い系だけど妹さんは綺麗系だ。



「仲良さそうだね。妹さんとよく出掛けたりするの?」

「――生きてた時はね」

「それって――」

「去年の九月に事故で死んだの。外にいる時に階段から滑り落ちて打ち所が悪かったみたい」



妹さんを亡くしてまだ一年も経っていない。


きっと心の整理はまだついていないだろう。


それなのに梓はいつも笑顔で元気で、まさかそんなに辛い経験をしていたなんて思いもよらなかった。


朝陽はそんな彼女を支えてあげたんだろうか。



「前日の雨で地面が滑りやすくなってたみたい。妹もお腹の中にいた赤ちゃんも助からなくて――今でも実感がわかないんだ――」

「妊娠、してたの?」

「産婦人科に行った帰りだったみたい」

「そっか――ごめん、辛いこと思い出させちゃって――」



梓は力なく首を横に振り切ない顔で微笑んだ。



「妹の死から逃げてばっかりじゃ駄目なんだって頭ではちゃんと分かってるの。だからもうこの部屋から出た方がいいのかなって思ってる」

「どうして?」

「この部屋には元々妹が住んでたんだ。ここに居るとまだ妹がいるような気がして、妹の死を受け入れられないでいるから――」






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