愛を餌に罪は育つ
一人とはいえ、ここは職場なんだから早く泣き止まなきゃ――。


唇を噛み締め頑張って涙を堪えようとするが、一度流れ始めた涙は簡単には止まってくれない。


ガチャッとドアが開く音がして顔を向けると、部屋に入ってくる副社長の姿が見えた。


今日は戻らないんじゃなかったの!?


私は急いで涙を拭ったがやはりそれでもこぼれ落ちる涙はどうしようもできなくて、顔が見えないよう背を向けた。


失礼かもしれないけどこんな顔見せられない。



『まだ居たのか?遅くなる前に帰りなさい』

「は、はい」



泣いているせいと焦りのせいで声が上擦ってしまった。


私ってば――もう、最低。


足音が近付いてくる音が聞こえる。


私は息を止め涙が止まるよう何度も止まれ、止まれと心の中で念じた。






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