愛を餌に罪は育つ
副社長はズボンのポケットから携帯を取りだし、ボタンを押そうと指を動かした。


警察に電話するつもりだ。


気づけば両手で副社長の手を掴んでいた。



「お話します。だから警察には連絡しないで下さい。お願いします」



私は膝に頭が付きそうなほど頭を下げた。


すると副社長のため息が聞こえ、『頭を上げなさい』と言われゆっくり頭を上げた。



『隣の私の部屋で話を聞かせてもらう』

「はい」



私は副社長の後ろをついて歩き、副社長室へと足を踏み入れた。


いつもは大好きな後ろ姿も今は見ているのが辛かった。


事情を話せば私はクビにされてしまうかもしれない。


ううん、こんな人間を秘書として置いておきたくないだろうし、私はきっとクビになるだろう。


副社長室の柔らかいソファーに腰を下ろすと、副社長もいつものように斜め前にある一人掛けのソファーに腰を下ろした。


今日でここに来るのも最後になるのかと思うと、切ない気持ちになった。


副社長に会えなくなるなら、私はどこにでも行けるような気がした。






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