愛を餌に罪は育つ
「去年のクリスマスの日に家族を殺されました。一人助かった私は記憶喪失になってしまって、自分の事すら忘れてしまったんです」

『そうか――辛い、等と言う言葉では言い表せない程の想いだっただろう』

「いいえ、記憶がないせいで実感がありませんから。家族の顔すら私は知らないんです」

『今も記憶は戻っていないのか?』

「たまにフラッシュバックの様に思い出すんですけど、いつも中途半端でよく分からないんです」



私はそれからも記憶喪失になってから今までの事を話した。


副社長は仕事で疲れているにも関わらず、急かすことなく真剣に話を聞いてくれた。


きっと副社長のこういうところも好きなんだと思う。



『では君を送り届けた時に会った彼は、記憶を失う前に付き合っていた彼という事か』

「はい。ですが、今は彼に対してその時抱いていた感情は持ち合わせていないんです」

『――――』

「ケジメをつけようと、昨日彼に家を出て一人暮らしをすると伝えたら――その――――ッッ」



止まっていた涙がまた目に溜まっていくのを感じ、私は下を向き歯を食い縛った。


スカートを握りしめ感情を抑え込もうと必死になっていると、爽やかだけど本の少し甘さを含んだ香りに包まれた。






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