愛を餌に罪は育つ
スーツの上からでも分かる。


引き締まった逞しい胸板。


副社長の腕が背中に回されしっかりと私の体を抱きしめてくれている。


夢みたい――私が副社長の胸の中にいるなんて――。



「あ、あのッッスーツが――汚れてしまいます」



副社長は私の言葉に何も答えなかった。


だけど気にするなとでも言うように、更にギュッときつく抱きしめてくれた。


空いている両手を迷いながらも副社長の背中に回し、副社長に体を預けた。


甘えるように頬をすり寄せると、受け止めるように頭をそっと撫でてくれる。


恥ずかしい気持ちもあったけど、そんな気持ちよりも嬉しさの方が大きかった。



「私――クビ、ですか?」

『まさかこの雰囲気でそんな事を聞かれるとは思わなかったな』



副社長は可笑しそうに鼻を鳴らして笑うと、私から体を離し顔を覗きこんできた。


温もりが離れた寂しさと、見詰められて火照る顔。


頬に触れ、涙を拭ってくれる副社長の指先があまりにも優しくて、また私の目からは涙がこぼれ落ち、綺麗な指を涙で濡らしてしまった。






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