愛を餌に罪は育つ
副社長は困った様に笑うと涙で濡れた頬をまた優しく拭ってくれた。



『今日の私の行為はセクシャルハラスメントになるんだろうか』

「――副社長の気持ちによります」

『私の気持ちか。君はどう思う?』



私の髪の毛を耳にかける仕草はゾクッとする程妖艶で、私は目を伏せた。


ズルい。


きっと私の気持ちに気付いてる。


それなのにどう思うだなんて――。



『顔を上げて』

「――――」

『涙を拭ってあげられない』



副社長は顔を上げようとしない私の顎に触れ、そっと上を向かせた。



『すまない。不謹慎だが、泣き顔があまりにも可愛らしくて苛めたくなった』

「え――?」

『君が好きだ』



こんなに近くで副社長の声を聞いてるのに上手く聞き取れなかった。


違う。


ちゃんと聞こえた――でも、信じられなくてどうすればいいか分からなかった。



『同棲している彼がいると知って諦めようと思った。だが、さっきの話を聞いて君を守りたいと思った』

「副社長――」

『秋――私の想いを受け入れてくれるならそう呼んでほしい』



今日は情けないほど涙を流してる。


でも今流れている涙は私にとっては凄く嬉しいもので、夢みたいだった。



「あ、き――ッッ」



私が名前を呼ぶと優しく、そして心地良いほどの強さで体を包みこんでくれた。






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