愛を餌に罪は育つ
体を離し秋さんは私の手を握り私たちはソファーに座ったまま向かい合った。



『好きなだけ甘えたらいい。全て受け止めるよ』



秋さんの整った顔を見上げ微笑むと、秋さんも柔らかく微笑んでくれた。


秋さんの目は熱を帯びたような眼差しに変わり、ゆっくりと私たちの距離が縮まる。


キス――される。


そう思い目を瞑るとすぐに柔らかい感触がした。


だけどその感触は唇じゃなくて、額に感じた。



「秋さん――」

『今はこれで十分だ』



そう言いながら秋さんは握っている手を優しく擦ってくれた。


嫌でも目につく紫の痣。


きっと私の心を優先してくれたんだ。


こんなに素敵な人に愛してもらえているなんて本当に夢みたい。



『ゆっくりお互いを知っていけばいい。そして私たちのスピードで針を進めていけばいい』

「はい」

『美咲の心の整理がついたら二人の時間を進めていこう』



秋さんは立ち上がり私の手を引いた。



『一先ずここを出よう』

「別々に出ましょう。秋さんを巻き込みたくないんです」



もしかしたら朝陽が待ち伏せしているかもしれない。


秋さんと一緒にいるところを見たら秋さんに危害を加えるかもしれない。


幸せな気持ちは一変して今は酷く息苦しくて気持ちが悪かった。






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