愛を餌に罪は育つ
前を向こうと体を動かした秋さんの腕を咄嗟に両手で掴んでしまった。



「こ、ここに泊まりますッッ」

『それほどまでに必死に言われるとさすがに傷付くな』

「私も秋さんと一緒に居たいですッッ!!でもッッあの、心臓がもちません――」



情けなくも、恥ずかしさのあまり段々と声が小さくなってしまった。


本の少し沈黙が流れ、喉を鳴らすような笑い声が車内に漏れた。


目線を上げると、可笑しそうに目を細めている秋さんと目が合った。



「か、からかったんですか!?」



口を尖らせムスッとした顔をして見せても、秋さんは相変わらず落ち着いている。



『そういう顔も好きだが、できれば私の傍では笑っていてほしいな』

「こういう顔をさせてるのは秋さんです」

『からかったつもりはないよ。美咲が何も言わなければ本当に家に連れて帰るつもりだった。だけど全力で拒絶された気がしてね、少し苛めたくなったんだ』



私の髪の毛を掬い上げ、弄ぶかのように触れる秋さんの手を意識すればするほど心臓が煩く騒ぎ出す。


そして艶のある瞳はどんどん私を虜にする。


なんて人を好きになってしまったんだろう。


私はもう離れられない――離したくない。






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