愛を餌に罪は育つ
「ご家族は放火されるよりも前に死亡していたと思われます。ですから犯人に襲われそうになった大野さんは何とか逃げ延び、外で気を失ってしまったのかもしれません」

「死んでたって――どうして――殺されたんですか!?犯人の狙いは何なんですか!?強盗!?恨み!?どうしてッッ――――」

「まだはっきりしたことは分からないんです。正直、大野さんが目を覚まされれば何か事件について進展するのではないかと思っていました」



もしかしたら私は犯人の顔を見ているかもしれない。


だけど、何も覚えていない――何も分からない。



「出来ることなら私もご期待にそいたいです。だけど何も覚えていないしッッ話を聞いて悲しいけど、その感情も漠然としていてよく分からないんです」

「大野さんが何か少しでも事件の日の事を思い出してくれれば、早く犯人を捕まえることが出来るかもしれないんです」



正直犯人の顔を見たからって記憶を失う程それが辛い出来事だとは思えない。


もしかしたら記憶を失うほど辛いものを見たかもしれないのに、今の気持ちを押し殺して思い出す事に専念しろって事?


家族の事を思い出して、今の話を目の当たりにしてもっと傷つけって事?



「――私の気持ちも知らないでッッ勝手な事言わないで下さいッッ!!」

「大野さん――」

「記憶を失って自分が何処の誰かもよく分からなくてッッそれにッこんな状態なのに迎えに来てくれる家族もいないッッそれなのに何をどうやって思い出せって言うんですか!?本当の私を知っている人はもう誰もいないんですよッッ!!!!!」



私の怒鳴り声が止むと、どのくらいだろうか――――暫くの間病室は静寂に包まれた。






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