愛を餌に罪は育つ
美咲をタクシーに乗せ、運転手に住所を伝え先にマンションへと向かわせた。


美咲にはマンションのロビーで待つように伝えて。


自分も帰る為タクシーに乗り込もうとしたとき、見覚えのある後姿が視界に入った。


あの後姿――。


俺は急いでタクシーに乗り込み、運転手に住所を告げた。


急いで美咲に電話をすると、のんびりとした美咲の声が聞こえてきた。



『美咲、行き先を君の泊まっているホテルに変更しよう』

「でもお仕事はいいんですか?」

『急ぎじゃないから明日にでも片付けるよ。ホテルについたら誰でもいいから従業員に部屋までついて来てもらうんだ。いいね?』

「――どうしたんですか?」



不安そうな声で喋る美咲を安心させようと、落ち着いた声で接した。



『結構お酒を飲んでいただろう?ちゃんと部屋に辿りつけるか心配なんだ』

「秋さんって心配性ですよね」



可笑しそうに笑いながらそう言った彼女に少し安心した。


一人でいる彼女に怖い思いをさせたくない。



『部屋の前に着いたらメールするから、それまではドアを開けてはいけないよ』

「はぁい、待ってますね」



電話を切り、運転手に行き先を変更してもらった。


どうか俺が着くまで彼女に何も起こりません様に、と今は願うことしか出来なかった。





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