愛を餌に罪は育つ
『勘違いしているようだが、ついつい構ってしまうのは美咲だけだ。弟からしてみれば俺は他人に関心がなくて自由人らしい』

「私は秋の事をそんな風に思った事ないよ」



と言った後に入社当時の事を思い出し、気まずい気持ちになった。


こんなに素敵な人をあんな風に思ってたなんて――ちょっと反省。



『なら美咲は俺の事をどう思っているんだ?』

「最初は――怖かった、かなぁ」



私の乾いた笑いが漏れ、秋はただ微笑んでこちらを見ている。


この雰囲気なんか辛い――。



「今は――」

『今は?』

「今は怖いなんて思わないよ。優しくて甘くて格好よくて――だけど、ちょっとだけ危ない雰囲気がある人、かな」



私の最後の言葉を聞いて秋さんは可笑しそうに口元を緩め笑った。


最後の言葉、正直すぎたかな?



『大事な言葉を聞けていないような気がするんだが?』



どうしてこの人はこう私の恥ずかしいツボを刺激するんだろう。


だけどその意地悪な言葉でさえ愛しく感じてしまう私は秋中毒かもしれない。



「大好きだよ!!もうッッ私会社に行く支度するねッッ!!」



秋の笑い声を背中で感じながら、私は逃げこむようにそそくさと足早に寝室へと向かった。


寝室にある鏡に写った私の顔は真っ赤だった。


私にこんな顔をさせられるのはきっと秋だけ――そう思うと自然と笑みが零れ、温もりが胸に広がっていった。





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