愛を餌に罪は育つ
『どうして直ぐに帰って来なかった?ここの方が安全だ』

「酷い顔してたから――。化粧直ししようと思ってたのに、するの忘れて帰ってきちゃったから今も酷い顔のまま――」



笑って喋る私の言葉を遮るように薄くほんのり柔らかい唇に口を塞がれた。


唇が離れ私の唇を親指でそっとなぞる秋の手つきにゾクッとした。



『いつでも美咲は綺麗だよ』

「そんな事ないよ」

『そうやって頬を赤く染めて恥ずかしがっている顔も』



私は急いで秋の首元に顔を埋めた。


秋は可笑しそうにクスクスと笑みを零している。


いっつもこうしてからかうんだから。



『何を話したんだ』

「お別れを言ったの。それと、私の事は忘れて梓と一緒になればいいと思うって――」

『梓って――確か総務課の森川さんだろう?彼と関係が?』

「記憶を失う前に朝陽は浮気してたみたい――梓と――。今もそういう関係なのかは分からないけど、ちゃんと朝陽と話して関係をハッキリすることができたら、二人は気兼ねなく会えるんじゃないかって思ったんだ」



まだよく分からないという顔をする秋に、私はUSBメモリの日記の内容や、指輪の件なんかを事細かに話した。


本当は話しちゃダメだって笠原さんと山田さんからは言われていたけど、秋なら大丈夫だと思った。


秋は口外したりしないし、ストーカーなんてするような人じゃない。


それに、事件に関わっているなんてあり得ない。







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