愛を餌に罪は育つ
秋は私の後頭部に手を添え、そのまま私を抱き寄せた。


私の髪の毛で遊んでいるかのように触るその手がくすぐったくて、だけどずっと触っていて欲しいと思った。


私の不安を取り除こうとしてくれてるんだ。



「秋――」

『ん?』

「朝陽の最後の顔が気になってしょうがないの。心の中の不安が取れない――」

『車は別々だが、朝は一緒に出よう。美咲はタクシーで警備員の立っている場所で降り会社に入る。帰りは定時で人がいる時に帰ればいい。コンシェルジュには部屋まで付き添うよう伝えておく。もしそれでも不安なら、俺の仕事が終わるまで待っていてくれないか』



忙しくても私の事はいつもちゃんと考えてくれる。


手の届くところに置いていてくれる。


だけど素直に喜べない。


愛しているからこそ、こんなに想ってくれているからこそ、私は出て行くべきなんじゃないかという思いが強くなる。



『傍にいろ』

「えっ?」

『俺は美咲から離れるつもりはない』



顔を上げ秋の顔を見ると、今まで見たことがない程優しい目をしていて、私の視界はぼやけ始めた。


今日は泣いてばかりだ。


顔を逸らそうとしたけど、長くて男らしい指がそれを許してはくれなかった。






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