愛を餌に罪は育つ
『それで何処に行きたいの?』

「梓の家に行ってほしいの」

『梓ちゃんの?今日休んでるの?』

「うん――それでちょっと様子見に行きたくて」

『体調崩してんの?』

「よく、分かんない」



車内は変空気になり、私はそれ以上は理由を話さなかった。


話さなかったと言うよりは、なんて話せばいいのか分からなかっただけ。



『梓ちゃんの家まで案内してくれる?』

「えっと――とりあえず○○駅まで行ってくれる?そこからならちゃんと道案内できるから」

『了解』



いつだって翔太君は相手が言いづらそうな時は無理に触れてこない。


それどころか嫌な雰囲気を和ませる様に笑顔で接してくれる。



『秋さんとは上手くいってんの?』

「うん。でも私には勿体無いくらい素敵な人だから、少しでも釣り合うように頑張らないと」

『そんな事ないよ。二人はお似合いだと思うし、秋さんは美咲ちゃんの事を凄く大切に思ってる。お互いのそういう気持ちが大事なんじゃん?』



お互いを大切に想い合う気持ち。


そっか――そうだよね。


当たり前な事だと思いがちな感情だけど、一緒にいればいる程後回しにしてしまいがちな感情かもしれない。



「翔太君、ありがとう」



翔太君は前を向いたまま微笑んだ。


見えていないだろうけど私も微笑み返し、背もたれにゆっくりと背中を預けた。






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