愛を餌に罪は育つ
救急車で運ばれた梓は直ぐに手術室へと入っていった。



「美咲ッッ」



手術中というライトアップされた文字を愕然と見ていると、後ろから名前を呼ばれた。


振り向かなくても分かる。


大好きな声だから。



「秋――」



息を切らした秋の姿を見た瞬間涙が溢れた。


急いで駆け付けてくれたんだね。


大好きな香りに包まれ、私は声を我慢しながら秋の胸で涙を流した。



『森川さんの容態は?』

『睡眠薬を多く服用してたみたいで今胃の洗浄をしてもらってます』



泣いていて上手く喋れない私の代わりに、翔太君が落ち着いた声で秋に話をしてくれる。


翔太君も一緒に居てくれて本当に良かった。



『睡眠薬?自殺しようとしたのか?』

『それはまだ――何とも言えないです』



私たちの周りが重く悲しい空気に覆われ始めた時、段々近付いてくるハイヒールの音がした。


姿を見せたのは呼吸を乱し、肩を上下に揺らした笠原さんだった。


笠原さんの顔は驚くほど蒼白だった。






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