愛を餌に罪は育つ
「大野さん――梓はッッ」



目に涙をためこれ程までに感情を露にした笠原さんを初めて見た。


その姿を見て驚いたせいか、私の頭と気持ちは逆に落ち着き始めていた。



「今、胃の洗浄をしてもらってます。命に別状はないそうです」

「そう――良かった。本当にッッよか、ッッた――」



笠原さんは力なくその場に座りこむと、口元を手で覆いながら涙を流した。



「あの――梓とお知り合いだったんですか?」



私の問い掛けに顔を上げた笠原さんは唇を震わせながら答えてくれた。



「幼なじみッッなん、です」

「幼なじみ――」

「私に連絡をして下さった時に、自分のせいで職場の友達が自殺をしようとしたのかもしれないと仰いましたよね?野坂さんが関係しているかもしれないと」

「――はい」

「それでその友達は梓なんじゃないかって――直ぐにピンときたんです」



どういう事?


梓から朝陽との関係を聞いてたの?


私が朝陽を刺激したせいで怒りの矛先が梓に向いたのかもしれない。


そう思うと笠原さんに対しても申し訳なさでいっぱいになった。






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