愛を餌に罪は育つ
私は手の甲で涙を拭い、鼻を啜り顔を上げた。



「すみません」

「いいえ、気にしないで下さい」



コーヒーカップに触れると冷たくなっていて、もう飲む気にはなれなかった。



「あの――梓の妹さんの話を聞かせて頂けませんか?」

「えぇ、私に分かる範囲でお話します」



梓はどんな気持ちで私と一緒にいたんだろう。


私は朝陽と梓の関係を勝手に疑って勝手に蟠りをつくって――。


本当に私は自分勝手でどうしようもない人間だ。



「涼ちゃんは本当に朝陽さんという男性を愛していたみたいです。美咲さんという本命の彼女から奪ってしまいたいと思う程に――」



私は話を聞いて驚いた。


好きな男性の子供を身籠るという方法で、相手を自分のものにしようとする妹さんのやり方――そんなの間違ってる。


間違ってはいるけど、好きな人を手放したくないと思う気持ちは痛いほどよく分かる。


私も秋が離れていきそうになったらしがみついてでも、這いつくばってでも追いかけるだろう。


たとえそれがどれだけ惨めな事だと分かっていても。







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