愛を餌に罪は育つ
笠原さんはやる事があると仕事に戻り、私は一人で梓の病室の前に戻ってきていた。


会ったところで梓を疲れさせるだけだという事は分かってる。


でも会いたかった。


梓は私なんかに何も求めていないだろう。


だけど私は梓に何かを求めているのかもしれない。


ドアを静かにノックして病室に入ると、梓は穏やかな顔をして眠っていた。


今の梓にとって、寝ている時が一番幸せかもしれない。


眠っている梓の横に立ち、私は梓の顔を見下ろした。



「妹さんの話聞いたよ。私ってば、一人で先走って――一人で解決した気になって――ほん、とッッごめ――ッッ」



私は上を向き、手を握りしめた。


堪えた筈の涙が目をギュッと瞑ったせいで目尻から零れ落ちてしまった。


涙を堪えようとすればするほど息苦しく、胸がつまるようだった。


十代の頃は、二十歳を過ぎればもう大人だと思ってた。


だけどそんな事ない。


私は今情けない程涙を流してる。


大声で泣き叫びたいと、秋にすがりこんな私を甘やかしてほしいと思ってる。






< 247 / 390 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop