愛を餌に罪は育つ
「梓――ッッ」



彼女の名前を口にすると、ドッと涙が溢れ次々に頬を伝いベッドに零れ落ちた。



「ごめん、ね――」



謝罪の言葉は自分でも信じられない程弱々しいものだった。


もっと伝えたい言葉はあるはずなのに、上手く口から出てきてくれなかった。


口だけが孤立し、意思を持っているかのように私のいうことを聞いてくれない。


それは余計に私の中の辛く苦しい気持ちを煽り、私は泣く事で精一杯で喋るどころか息をするのも儘ならなかった。


こんな私を見ても梓は何も言わない。


だけど、私の手を包み込むようにやんわりと握ってくれた。


それだけで今の私には充分だった。


梓はそのまま優しく微笑み涙を流した。


こんな私を心配してくれる梓。


梓の優しさが傷口に入り込み、心を修復しようとしてくれているみたいだった。


私は梓の手を握り返し、暫くの間ベッドに顔を埋め泣いた。


自分でもどのくらい泣いていたのかは分からないけど、涙は止まっては流れての繰り返しだった。






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