愛を餌に罪は育つ
私は秋の頬を撫で下ろし、首の後ろに両手を回した。



「話が終わったら抱きしめてくれる?」

『あぁ、勿論。どんな時でも抱きしめるよ』



秋はそう言って私を抱きしめた。


秋の肩に頭をのせ、首元に顔を埋めた。



『美咲の本当のご両親の事を調べて分かった事がある』

「――うん」

『ご両親は二人共――随分前に亡くなっている』

「え――?」



体を起こし秋の顔を見ると、秋は目を反らす事なく真っ直ぐと私の目を捉えた。


記憶は無いにしろ、もしかしたら――と思っていた分その事実はとても衝撃的だった。



『お母様は美咲の出産時に亡くなってしまったようだ』

「私の――せい?」

『出産は誰でも命懸けだと言う。それでも女性が子供を産もうと思えるのは、まだ見ぬ我が子を愛しているからだ』

「――――」

『自分の命よりも愛する我が子の命を選んだんだ。自分のせいでなんて思ったら、亡くなられたお母様が悲しむ』



お母さん――。


今は謝罪の言葉しか浮かばない。


だけどいつか、産んでくれてありがとうって言える日が来ればいいなって思う。


そう思えるのはきっと秋が優しく涙を拭ってくれるから――。






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