愛を餌に罪は育つ
顔と歯を力強く洗い、勢いよくお風呂に浸かった。


いつもならスッキリする状態なのに全然スッキリしない。


さっきまでは酷く苛々してたのに今は自分の事なのに悲しいのか情けないのかよく分からない。


とにかく泣きたくてしょうがない。


もうヤダ――。


広いお風呂の中で体を縮こまらせ膝に顔を埋めた。


自分から話をふったくせにいじけて途中で終わらせて、終いには自棄酒。


私は思いっきり息を吸い込み息を止め、目を閉じると一気に頭までお湯の中へ浸かった。


頭を抱える様に両手で耳を塞いだ。


外からの音が消え、その代わり体の中の音が聞こえる。


突然お腹に何かが触れ慌てて顔を上げた。



「秋ッッ」

『酔い醒ましはいいが、下手したら溺れるぞ』



私はプイッと顔を前に向けた。


あれ――私今裸で秋に後ろから抱きしめられてる!?


体は密着し、素肌と素肌が触れ合っている。


想像していた以上に恥ずかしくて、今すぐ逃げ出したかったが、私は動く事ができなかった。


動けば体を見られてしまうから。






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