愛を餌に罪は育つ
秋は私をベッドに寝かせると頬にキスを落とした。


そんなキスいらない。


怖くて私が泣いてると思ってるの?


違う――違うよ――ッッ。


私は秋の背中にしがみつき、部屋を出ていこうとした彼を引き止めた。



「あの日の事、忘れさせて――おねッッが、い――」

『忘れたいから俺に抱かれるのか』

「違うッッ」



顔は見えないけど秋の声は低くて怒っているような感じがした。


それでも掴んだ浴衣を離したくなかった。


この手を開いたらきっと秋は振り向きもせずに部屋を出ていってしまう。


そんなの嫌――。



「秋と居ると普段の何気ない小さな事でも幸せなの。一緒にいない時でもいつも心の中に秋が居て――本当にッッ幸せ――な、の」

『――――』

「だけどッッその幸せをあの日のできッッ事が邪魔するの――忘れたいから抱いてほしいんじゃないッッねぇ教えてよ――好きな人と体を重ねる事の幸せを――」



手は不自然な程震えていて、まるで秋にすがっている様に見えた。


その行為が恥ずかしく思え、私は手を離し腕を垂れ下ろした。






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