愛を餌に罪は育つ
手紙を書かされその後も抵抗する事ができず、言われるがまま薬を飲んだとの事だった。


そしてあり得ない程の胃の気持ち悪さと痛みで目を覚まし、知らないベッドに横たわっていた梓。


目を覚ました時に知らない場所にいる時の不安は私にもよくわかる。


私もそうだったから。



「これ以上思い出したくないだろうけど一つ聞いてもいい?」

「――――」

「チラッとでいいから犯人の顔は見なかった?」

「――ごめん、見てないの」

「そう――」



刃物で脅されてたなら犯人の顔を見る余裕なんてないよね。


その上酷く酔っぱらってたなら尚更だ。



「でも、それならどうして朝陽の名前を出した時あんなに脅えてたの?」



朝陽という名前にまたしても体をびくつかせる梓。



「――耳元で喋る声が彼にそっくりだったから。酔っ払ってたし何の根拠もないけど、直感で彼だと思ったの」



笠原さんは難しい顔をしてコーヒーの入ったカップを口元へ運んだ。


今はプライベートな時間なはずなのに、笠原さんの顔付きは仕事の時に見せるものへと変わっていた。






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