愛を餌に罪は育つ
『大野さん、今日はもう帰ってゆっくり休んで下さい』

「でも――」



私は翔太君のいる病室をチラッと見た。


私だけ帰る訳にはいかないよ。



「宮沢さんの傍には私がついてるから、美咲は副社長と一緒に帰りなよ」

「梓――」

「目を覚ました時に美咲がそんな顔してたら宮沢さんビックリしちゃうよ」



優しく笑いそう言ってくれた梓に笑って返すと、その拍子に涙が一粒頬を伝い零れ落ちた。



「梓、ありがとう」



翔太君の顔を見て帰ろうと、私は秋と二人で静かに病室に入った。


翔太君の寝顔を見るなり、安心した様な笑みを見せる秋。



『翔太、ありがとな。早く目覚ませよ』



私は秋の手を握り、寄り掛かるように体を寄せた。


暫く無言で私たちは翔太君の寝顔を見詰めていた。


顔や体に傷はなく、ここが病室じゃなかったらいつもと何ら変わりない、気持ち良さそうに寝てるなぐらいにしか思わなかっただろう。






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