愛を餌に罪は育つ
私は恥ずかしさをまぎらわす様に口を開いた。



「あ、あの今日から宜しくお願い致します」



深く頭を下げると頭の上から柔らかい声が降ってきた。


見た目や雰囲気だけじゃなく、声まで綺麗な人。



「秘書課のリーダーを務めている増田です。私が大野さんの指導係を務めさせて頂きます。こちらこそ宜しくね」

「はい、宜しくお願い致します」



秘書をしている人たちはみんな増田さんみたいな人なのかな。


みんなこんなに綺麗で落ち着いているんだろうか。


増田さんは腕に付けている時計に目を向けたあと、私を見て微笑んだ。



「そろそろ行きましょうか」

「はい」

「歩きながら簡単にスケジュールの話をするわね」

「はい」



増田さんが足を進める度に堂々とした足音がタイル張りのフロアに響き渡る。


周りにいる人たちは気にも止めていないだろうけど、私には凄く大きな音に感じた。


私もこの会社の中を堂々と歩けるように早く馴染めたらいいなと思いながら、増田さんの少し斜め後ろを静かについて歩いた。





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