愛を餌に罪は育つ
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美咲のいなくなった副社長室はシンと静まりかえっていた。


一人残った秋はスーツを整えると、帰る訳でもなく何をする訳でもなく、ただ外を眺めていた。


都内一等地にあるビルの最上階から見渡せる景色、それも夜景は絶景だ。


ノックもなしにドアが開き秋は静かに振り返った。



『来るだろうと思っていた』

『殺してやるッッ』

『髪色を変えたのか。捕まらない為の馬鹿げた知恵だな』

『黙れッッ!!』



怒りを露にする朝陽に対して秋は恐ろしい程冷静で冷たい目をしていた。



『黙るのはお前の方だ。人の敷地内に無断で入ってきておきながら、舐めた口をきくな』



朝陽は息を飲んだ。


秋の威圧的で突き刺すような物言いは、一気に部屋中を冷たい空気で包み込んだ。



『見ていたんだろう?』

『ッッ――』



秋はチラッと目線を上げると口元を歪め笑った。



『角度的に美咲の後ろ姿しか見えなかっただろうがな。乱れている時、愛くるしい時、どんな彼女も俺をどんどん溺れさせる』

『お前わざとッッ――』

『ここで美咲を抱けばカメラ越しに見ているお前はすっ飛んでくるとは思っていたが、まさかこうも上手くいくとはな。お前が単純な人間で助かったよ』






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