愛を餌に罪は育つ
朝陽は取り乱しながらも、負けじと秋を睨み付けた。


だが秋はそんな朝陽を相変わらず冷めた目で見ていた。


この奇妙な空気をまだ二人は終わらせるつもりはないようだ。



『仮にお前の言っているとおりだったとしよう』

『だったとしよう、だと?笑わせるな。事実だろう』

『事実をお前なんかが知るはずがないッッ!!お前が野坂を知ったのは美咲と知り合ってからじゃないかッッ!!』



混乱からか、朝陽は自分がおかしなことを口走ってしまった事に気が付いていないようだ。


野坂 朝陽の姿をしているだけで、この男を本当に野坂 朝陽と呼ぶのは最早間違いかもしれない。


謎の男、とでも呼ぶべきだろうか。


秋は笑いを堪える様に口元を押さえた。



『野坂 朝陽にストーカーが付きまとっているとばかり思っていたが、彼の部屋に取り付けた隠しカメラで美咲を見ていたんだろう?』

『な、にッッ言って――』

『下手な演技はもう止めろ。虫酸が走る』



たんたんと告げる秋の言葉は一言一言がまるで刃物の様だ。


それも相手が死なないよう痛め付けるかのように、急所は狙わず投げている。






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