愛を餌に罪は育つ
男は観念したかのように力なくソファーに座り込んだ。


そして渇いた男の笑い声が部屋中に響いた。


秋はその声に不愉快そうに顔をしかめた。



『美咲をあんな男に取られてたまるかよ。美咲という女がいながらあいつは浮気した挙げ句他所でガキをつくったんだぞッッ!!』



男の顔は今までにないほど怒り狂っていた。


怒りのせいか、体を震わせ拳を自分の膝に打ち付けた。



『なら何故その男を殺すだけではなく自分自身ががその最低な男になったんだ。おかしいだろ』

『美咲がその事を知ってたか知らなかったかは分からないが、野坂と結婚を決めたんだよ。俺が野坂になれば美咲と一緒になれると思ったんだ――ずっとずっと一緒に、恋人として、子を共有する家族として――』



さっきまでは自分の事を“僕”と言っていたはずが、今では“俺”に変わっていた。


話し方も弱々しく情けない感じから、キリッとして多少強いものに変わっていた。


男の素に近付きつつあるのかもしれない。






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