愛を餌に罪は育つ
「研修をする場所は二階なんだけど、先に顔合わせをしてもらいたいの。副社長と」

「副社長ですか!?」



まさか副社長の元へ向かっているとは思っていなくて増田さんの言葉に驚いた。


普通そんなに偉い立場の人と秘書とは言えど社員が挨拶なんてする!?


若干混乱している私に増田さんは更に混乱を煽るような言葉を放った。



「大野さんには副社長の秘書をお願いするからご挨拶はしっかりね」

「――今、何と仰いました?」



きっと今の私は酷い顔をしているだろう。


自分で顔がひきつっているのが分かる。


そんな私を見て増田さんは眉尻を下げ申し訳なさそうに説明をしてくれた。



「副社長の秘書を務めていた人がお家の事情で急に退職することになったのよ。だから秘書歴の長い人に今の仕事と合わせて、大野さんが就くはずだった執行役員の秘書もお願いしたの」

「で、でも私に副社長の秘書なんて大役無理ですよッッ」

「秘書経験のない大野さんには役員二人分のスケジュールを管理する方が厳しいと判断しての事なの」



そんな――。


血の気が引いていくと言うのはこういう事なのかもしれない。


酷いプレッシャーで目の前が真っ白になりそうだ。






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