愛を餌に罪は育つ
男は突然顔を隠すように両手で覆った。


段々と肩が上下に動きだし、喉をならし不気味に笑い始めた。


上半身は前のめりになり体と一緒にソファーも揺れている。


怪訝そうな目を向ける秋に対しニヤッと笑みを向ける男。



『いつ思い出しても笑える。野坂の死体を見た時の奴等の脅えた顔。俺と転がってる奴の顔馬鹿みてぇに何度も何度も見比べてんの。あぁーあれはマジ笑えた』

『奴等?』

『偽者の親に決まってんだろ』



男は酷く白けた目をしていた。


何に対してそんな目を向けているのかは分からない。



『先ずは父親を刺し殺した。次に父親にすがりついてギャーギャー泣きわめいてる母親を刺し殺した。人間ってあっけねぇもんだな。ただ今でも忘れられねぇんだ――ナイフが肉に沈んでいく感覚が――』



男は両手を掲げ、幸せそうに、そして誇らし気に自分の掌を眺めた。


まるで自分の行いは正しかったんだと言わんばかりに――。






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