愛を餌に罪は育つ
男の話を聞くほどに話がどんどん複雑に絡まっていくような気がする。


だが秋は相手に見下されるような素振りを一切見せない。


表情や態度だけでは今の秋の心を覗くのは極めて難しいだろう。



『美咲のお兄さんと野坂 朝陽は同じ職場だったな。お兄さんはお前と共犯ということか。それで、そのお兄さんは今どこにいる』



男は伏し目がちに、切ない表情を見せた。



『圭はたくさん悩んだ末、存在するのを止めた。大切な美咲を幸せにするために俺に全てをかけたんだ』

『どういう意味だ』

『そのままの意味だ。圭が一番心残りにしていたのは美咲に別れを告げられなかった事。美咲は圭を頼りにしていたからな』

『お前が殺したのか』

『俺が?そうかもな』



知っている様な口ぶりで話していたかと思うと、歯切れの悪い答えをする。


男の言葉を全て信用していいのかと疑問が浮かぶ。


だが今のところこの男が真実に一番近い場所にいるのかもしれない。






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