愛を餌に罪は育つ
男はソファーに頭をのせ、天井を仰いだ。


冷静さを取り戻したのか、男を覆う空気は静かだった。



『家族が居なくなりゃ美咲が頼れるのは俺だけ。それに運がいい事に目を覚ました美咲は記憶喪失だった』

『計算通りにいかなくて残念だったな』

『お前を含め予想外な事は色々あったが、もうじきそのズレも修正できる。てめぇがでけぇ面ができんのも今のうちだ』



男は余裕の笑みを見せた。


秋はそんな男を見下ろし、相変わらずの冷たい目を向けている。



『んで、てめぇは何で色々知ってんだよ。調べて分かる事ならとっくに警察にもバレてるはずだが』

『お前が勝手に自分の事をベラベラ話していただけで、俺は話すつもりはない』

『そう言うと思った。見かけ通り性格わりぃのな』



男は立ち上がるとポケットからナイフを取り出した。


ナイフを見ても秋は動揺しなかった。


席を立つ気配もない。






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