愛を餌に罪は育つ
男は鼻で笑うと秋の方へナイフの先端を向けた。



『今まで美咲に近付く奴は排除してきた。どんな奴も最終的にこうして刃物を向ければ怯えて手を引いた。それなのにてめぇはその余裕の表情――本当ムカつく奴だな』

『うちの会社の加藤を突き落としたのもお前か』

『馴れ馴れしく美咲の周りをうろちょろと目障りだったんでね。他人と言えど、社内の人間に手を出されていい気はしねぇとでも言いてぇの?』



男は馬鹿にしたような笑いを溢し、相変わらず座って動こうとしない秋を見下ろした。


この光景だけを見れば秋は抵抗も出来ずただ脅されているように見える。


秋は目を細め微笑んだ。



『いいや、その件に関しては礼を言いたかった』



男はおかしそうに肩を揺らし笑い出した。


上品とは言えない男の高笑いが部屋中に響いている。



『てめぇみてぇなのを何て言うか知ってるか?』

『さぁな』

『歪んでるっつぅんだよ』



男は愉快そうに口元を歪めナイフを畳みポケットの中へ戻した。






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