愛を餌に罪は育つ
『俺はてめぇの事嫌いじゃねぇよ。性格わりぃけど』

『お前が何処の誰だろうともうどうでもいい。とにかく二度と美咲の前に姿を表すな』



男はニヤッと笑うと、両手をズボンのポケットへ突っ込み秋に背を向けた。



『てめぇに美咲は渡さねぇよ。それと手元のボタン押さなかった事後悔させてやる』



秋の手元には警備室に繋がる緊急ボタンが置かれていた。



『お前も俺をここで殺さなかった事を後悔するがいい』



男は鼻で笑うと歩き始めた。


ドアノブに手をかけたが、秋の声に動きを止めた。



『最後に一つ』

『――――』

『野坂 朝陽の家以外にも美咲を見る為にカメラを仕掛けたのか』

『――美咲の部屋。もう燃えちまったけどな。何でだよ』



男は顔だけを後ろに向けた。


最初の勢いが嘘の様に今は気だるそうだ。



『もう用はない。警備員を呼ばれたくなければさっさと出ていけ』

『本当いけすかねぇ奴。美咲の体の感覚をしっかり覚えとけよ。そして後の虚しさに惨めに苦しめ。俺からの最初で最後のてめぇへのプレゼントだ』



男は勝ち誇った様な笑みを見せると直ぐに部屋を後にした。


秋は煙草に火をつけ、煙を吐き出しながら椅子の背凭れに体を預けた。




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