愛を餌に罪は育つ
緊張し過ぎて朝ごはんが逆流しそう。



「仕事に対してはとても厳しい方だけど、厳しさだけではなく思い遣りもある方だからそんなに心配しなくても大丈夫よ」

「――はい」

「素敵な方だから女性社員に副社長のファンが多いいのよ。男女問わず慕われている方だけどね」



今にも緊張と不安に押し潰されそうな私を励ましてくれているんだろう。


だけどいくらどんなに素敵な人だと聞かされても、今の私には効果はなさそうだ。


顔や性格がどうであれ、責任の重さは変わらない。


ましてや女性社員に大人気の副社長の秘書が新人でしかも経験無しだなんて――反感をかってしまいそうで恐ろしい。



「ここよ」



副社長室というプレートがあるドアの前で足を止めると、増田さんは今日二度目の素敵な笑顔を見せた。


緊張で強張った顔で私はどれだけ笑い返せているだろう。


もしかしたら笑っているつもりで笑えていないかもしれない。



「ここを入るとまず秘書室があるわ。副社長付きの秘書専用室。その奥が副社長室になっているの」

「秘書室に私一人だけなんですか?」






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