愛を餌に罪は育つ
美咲はポツリポツリと話し始めた。



「最初は記憶なんてなくてもいいって思ってた。だけど、少しずつ不安が広がり始めて、自分の事も周りの事もよく分からなくなって――ッッ」

『ずっと一人で苦しんでたんだね。ごめん――気付いてあげられなくて』



美咲は涙を拭いながら首を横にふった。


そして鼻をすすり、心を落ち着かせる様に烏龍茶をのんだ。



「あんなに酷い態度とって――もう許してもらえないよね?」



髪の毛を耳にかけ、遠慮がちに朝陽の顔を見る美咲の目は潤んでいた。


また涙が溢れ落ちてしまいそうだ。



『許すも何も美咲は何も悪くない。悪いのは何も知らない美咲をそそのかした周りの人たちだよ』

「朝陽――」



鼻をほんのり赤色に染めた美咲は目に涙をため微笑んだ。



『もう離れたくない。僕と一緒にいてよ、美咲』

「でも――警察が――」

『警察も誰も追って来れない所へ一緒にいこう』

「誰も、追って来られない所?」



朝陽は静かに囁く様に告げた。



『天国に逝こう』



美咲は目を見開き驚いた顔を見せたが、すぐに嬉しそうに口元を緩めた。



「嬉しい――私も同じこと考えてた――――」



騒がしい店内で二人を包む空気はとても穏やかだった。


テーブルの上で手を絡め、自然と乗り出す体。


重ねられた唇はまるで誓いのようだった。






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