愛を餌に罪は育つ
「あの時の彼とはとっくに別れてるわよ。ね?」



私は慌てて頷いた。


ただ頷くだけなのに、少しぎこちなかったかもしれない。



『マジかよ――何だよそれ――』



いじけた様にため息をついた加藤さんの肩を梓が小突いた。


加藤さんの歪んだ顔を見る限り、小突いたなんていう優しいものではなかった様だ。



「今彼女いるんでしょ?」

『いるけどそれはショックだろぉー。まさか別の男と結婚するなんてよ――もっと押しときゃよかった!!』

「何その最低発言」

『いってぇッッ』



梓はわざとらしく加藤さんを睨み付け、握りこぶしを振り上げ勢いよく加藤さんの肩に落とした。


それには私もビックリして食べる手が止まってしまった。


でも何だか段々可笑しくなってきて、声を出して笑ってしまった。



『美咲ちゃん笑い事じゃないよぉー』

「だってっ――」



笑が止まらず上手く喋れない。


もぅ、お腹痛いっ!!



「今のは加藤さんが悪いんですよ」



私がそう言うと、加藤さんはシュンと肩を落とし『ごめんなさい』と呟いた。


その仕草が更に私のツボにはまってしまい、笑いは暫く治まってはくれなかった。






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