愛を餌に罪は育つ
「仕事辞めたら、周りを気にせず秋の隣歩いていいんだよね?」

『あぁ』

「もう隠さなくていいんだよね?」

『あぁ』

「早く後任の人見付からないかなぁー」



私の質問に穏やかな声で答えてくれていた秋が、我慢できないとでもいう様に突然笑い始めた。


私は目を丸くして固まってしまった。


笑わせるような事言ってないんだけど――。



『どうしてそう可愛い事を言うんだ』



秋は上を向き空いている手で顔を覆うと、笑いを交えた声でそう言った。



「可愛くなんかない。ただ心配なだけ」

『心配?』

「どっかの綺麗な女の人に取られちゃいそうで心配。私が隣にいたところで誰も気にしたりしないだろうけど」

『本当、可愛いよ』



背中に柔らかい感触がして、体の重みで微かにソファーが沈む。


秋は私の顔を見下ろし、私は秋の顔を見上げ目を見詰めた。


涼しげな目元は細められ、柔らかい笑みを浮かべていた。






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