愛を餌に罪は育つ
今日は少し雲っていて、星がよく見えない。


車の中では自分では選ばないであろうジャズミュージックが流れている。


緊張した雰囲気は微塵もなくとても穏やかな空間だ。



「忘れ物はない?」

『うん、必要な物は全部揃えたよ。いくら僕でもこんな大切な日に失態はしないよ』



笑顔でそう話す朝陽の横顔を静かに見詰めた。


貴方は何事も完璧でなければ気が済まない質だものね。


でも感情が漏れている事に気が付かない。


それさえなければ本当に完璧な人だと思う。



「どこに向かってるの?」

『美咲は覚えていないかもしれないけど、僕たちの思い出の場所だよ』

「思い出の場所?」

『神社だよ。その神社で催されるお祭りに二人で浴衣を着て行ったんだよ』



それは朝陽との思い出の場所じゃない。


貴方は思い出の場所かもしれないけど、私にとってはただの神社にすぎない。



『お祭りの射的で取った玩具の指輪を嬉しそうに貰ってくれたよね』

「ごめん、覚えてないの」

『いいんだ、気にしないで。玩具だったけど美咲の薬指に指輪を通した時、一生大切にしようって思ったんだ』



気持ち悪い――。


気持ちを悟られないよう私は口を開かずただ微笑んだ。






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