愛を餌に罪は育つ
目的地の神社に着き、車を止めるとエンジンを切った。


何かが催されているわけではないため、私たちの他に人は居なくて不気味な程静かだ。


何かしらの仏様が祀られている神社を死に場所に選ぶなんて、なんて罰当たりなんだろう。


この人は昔から神やら霊やら目に見えないものを信じていないから気にしてないんだろうけど。



「三個も用意したの!?」

『中途半端な結果に終わらないようにね。念のためだよ』



彼は淡々と後部座席の足元にしちりんを並べて置いていく。


私は手伝わずその様子をただ眺めていた。


炭が弱々しく赤色を灯し始め、彼が運転席へと戻ってきた。



『この方法なら苦しまずに手を繋いだまま遠くに逝ける』

「そうだね」



私は彼の方へ体を向け、真っ直ぐ彼の目を捉えた。


彼は不思議そうな顔をして首を傾げた。



「お願いがあるの」

『お願い?』



私は唾を飲み込み、覚悟を決め口を開いた。



「おもいっきり、力一杯頬っぺたをひっぱたいて欲しいの」






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