愛を餌に罪は育つ
彼は決心したかのように顔を上げ、深く深呼吸をした。



『ちゃんと歯を食い縛っててね』

「うん、ありがとう」



言われた通り歯を食い縛り、ギュッと目を瞑った。


自分から言ったものの、正直怖い。


今まで殴られた事なんてないから、どれ程の痛みに襲われるのかも全く分からない。



『いくよ』



私は何も答えず、更に歯をギュッと噛み締めた。


想像以上の痛みが頬を襲い、一瞬息が止まるようだった。


放心状態の私の頬に触れ、顔を覗きこむ様に見てきた彼は酷く申し訳なさそうな顔をしていた。



『ごめん』

「いッッ――いいの。私がお願いした事なんだから謝らないで。ありがとう」



口を開くと頬と口の中に痛みを感じた。


口の中は血の味が広がっていた。


どうやら食い縛り方が足りなかった様だ。



『美咲』



心配するような声を掛けられ顔を向けると、目を瞑る暇もなくキスをされた。





< 365 / 390 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop