愛を餌に罪は育つ
暫くすると白衣を纏った男性が部屋に入ってきた。


その男性を見て、やっぱりここは病院なんだと改めて実感した。


今のところ特に体に異常は見当たらないとの事。


それはそうだろう。


睡眠薬を飲んで、少し一酸化炭素を吸い込んだだけだから。



『念のため二、三日は入院して頂きます。では何かありましたら枕元のボタンを押して下さい』

『はい、ありがとうございます』



私の代わりに先生に返事をしてくれる秋。


喋りたくないわけではないが、動かすと頬が痛む為できれば口を開きたくなかった。


違和感を感じる左頬は、鏡を見なくても腫れているだろうと思った。


遠慮がちに私の左頬に触れる秋の手があまりにも優しくて、泣いてしまいそうだった。


病室のドアをノックされ秋が返事をすると、静かにドアが開いた。


そこには安心したような顔をした翔太君と、目を張らした梓が立っていた。






< 371 / 390 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop