愛を餌に罪は育つ
梓は笠原さんに連絡をしてくると言い、翔太君と病室を出て行ってしまった。


涙の止まらない梓の肩を抱いている翔太君の姿を見て、正直複雑な気持ちだった。


真実を知らなければ、微笑ましい光景だったに違いない。



『他に殴られたり蹴られたりはしていないんだな?』



頭をそっと撫でてくれる秋の手にホッとした。


この手を、居場所を失わずにすんだんだ。



「他は平気だよ」

『もう終わった、全て終わったんだ。だから、退院したらゆっくり旅行にでも行こう』

「終わった?」

『詳しい話はまた明日にしよう。今日は何も考えずに安心して過ごした方がいい』



秋の言葉の意味を本当は理解していた。


だって、私がそうなるよう仕向けたんだもん。


これで朝陽に償いが出来たのかは分からない。


育ててくれた両親にも――。



「もう一眠りしようかな。ずっと手を握っててくれる?」

『離してほしいと言われても離さないよ』



互いに微笑み、私はゆっくり瞼を閉じた。


私に夢は必要ない。


起きている時こそが夢そのものだから――。






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