愛を餌に罪は育つ
手を繋いだまま目を瞑り、彼が眠るのを待っていた。


しちりんを焚いていた事もあり、私自身車内に長居するわけにはいかなかった為、正直賭けでもあった。


一酸化炭素が充満する密室の中にどれくらい身を投じていられるのか、経験がない為分からなかったから。


インターネットや本で調べてはみたものの、個人差があるだろうし当てにならなかった。


息苦しくなり意識がふわふわし始め、そろそろまずいかもしれないと思った。


彼の手をそっと握ったが彼が握り返してくることはなかった。


そっと手を離し、ダッシュボードを静かに開けた。


車内のどこに何があるのか私は知っていた。


乗りなれた車だったから。


私は手にした懐中電灯をギュッと握り、彼の頭めがけ勢いよく振り落した。


それだけの事なのに、息は荒く漏れ、胸は激しく動いていた。


懐中電灯を握った手は震え、いう事を聞いてくれず手から中々離れてくれなかった。


これ以上その場にいては私も死んでしまうと思い、左手で右手をこじ開け懐中電灯を離すと、すぐさま車の外へと飛び出した。





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