愛を餌に罪は育つ
無我夢中で今までにないほど必死になって走った。


神社裏の茂みに入ると、妙な安心感を覚え足に力が入らなくなった。


そのままそこに座りこみ、予め作成し保存しておいたメールを秋に送信した。


頭を殴った直後、彼が目を開いたような気がした――。


勘違いかもしれないけど、そうじゃないかもしれない。


その時気絶したのか死んでしまったのかは分からなかったけど、殴った事が直接の死因ではないと聞いて何故だかホッとした。


私は彼に手渡された睡眠薬を一錠だけ飲み、その場で眠り、目を覚ますと病院のベッドに横になっていた。


“助けて”その一言しか秋には送っていない。


それでも見つけてくれた。


目を覚ましたら手を握ってくれていた。


死ぬまで絶対に離さない。


それにもう彼はいない――朝陽になりすましていた彼。


まさかストーカーが朝陽になるとは思っていなかった。


そこまでする人だとも思っていなかった。


ストーカーが消えていた約半年の間、その間にきっと彼は顔を変えたんだろう。


でもいくら顔を変えようと変えられないものがある。


声――朝陽はもう少し高い声だった。


気を付けていたんだろうけど、聞きなれた貴方の声に私が気付かないはずがない。






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